2024年4月から、トラックドライバーの時間外労働が上限960時間となり、改善基準告示も改正されたものが適用されます。
ドライバーの労働時間が短くなると、輸送能力も不足することが予想され、この問題はいわゆる「2024年問題」として知られています。
2024年問題に直面する物流業界では、ドライバー不足が原因でトラックを売却する動きが加速しており、人手不足は深刻な状況です。
この記事では、トラック売却が増加した背景に触れつつ、ドライバー不足の原因や企業の人材確保に向けた対策について解説します。
ドライバー不足によるトラック売却増加の背景
物流業界でトラック売却の動きが進む背景には、ドライバーを採用できない中、倒産を防ぐため固定費を減らそうとする経営者の苦渋の決断があります。
具体的には、稼働していないトラックの保険・整備等に発生するコストを減らすのが目的です。
物流・運送業者はトラックの稼働率が売上に直結するため、
そのため、ドライバーが不足しトラックの稼働率が下がれば経営は悪化します。ば
帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査(2024年1月)」によると、物流業(道路貨物運送業)の人手不足割合は72.0%となっており、7割以上の企業が人手不足に陥っていることが分かります。
また、人手不足を理由とした経営破綻も増えており、帝国データバンクの「人手不足倒産の動向調査(2023年)」によると、物流業の倒産件数は39件と、建設業に次いで多い数となっています。
トラックを稼働させられるドライバーが集まらない中、経営状況を改善するためには、できる限りコストを抑えるしか方法がありません。
今後、定年退職するドライバーが増加するにつれて、売却されるトラックはさらに増えることが予想されます。
ドライバー不足の主な要因
各社が求人媒体に掲載している情報を見る限り、収入や教育体制の面で魅力的な求人も決して少なくありません。
それにもかかわらず、ドライバーが不足している要因としては、以下のようなものが考えられます。
宅配需要の増加
新型コロナ禍で高まった「巣ごもり需要」の影響もあって、宅配需要は増加傾向にあります。
国土交通省「令和4年度 宅配便等取扱個数の調査及び集計方法」 によると、宅配便の取扱個数は毎年増え続けている状況です。
年度 | 取扱個数(百万個) |
---|---|
平成30年度(2018年) | 4,307個 |
令和元年度(2019年) | 4,323個 |
令和2年度(2020年) | 4,836個 |
令和3年度(2021年) | 4,953個 |
令和4年度(2022年) | 5,006個 |
加えて、時間指定・翌日配送などの複雑なサービスによってドライバーの負担が増えたこともあり、宅配に従事するドライバーの数が不足している状況です。
少子高齢化
日本では少子高齢化が進んでいる状況のため、限られた労働力をいかにして確保するかが重要です。
物流業界においては高い年齢層の人材が数多く働いているため、労働力を維持するためには、最低でも毎年“定年退職する人材と同数以上の新卒者・中途採用者を確保する”必要があります。
しかし、若年者が相対的に少ないため、同数以上の労働力を確保するのは厳しいのが実情です。総務省統計局の「労働力調査(基本集計) 2023年(令和5年)平均結果」によると、2023年の年齢階級別労働力人口は以下の通りとなっています。
年齢 | 人口 |
---|---|
15~24歳 | 586万人 |
25~34歳 | 1,156万人 |
35~44歳 | 1,319万人 |
45~54歳 | 1,665万人 |
55~64歳 | 1,269万人 |
65歳以上 | 930万人 |
総数 | 6,925万人 |
単純に人口を比較するだけでも、45歳以上の労働者数が3,864万人と、総数の約56%を占めています。
労働環境・条件
物流業界は、特にドライバーの労働環境が過酷というイメージもあり、全産業の平均に比べてトラックドライバーの年間所得額は低く、年間労働時間は長い傾向にあります。
厚生労働省の「自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト」によると、全産業平均と比較して、令和3年度におけるトラック運転者の年間労働時間は長く、年間収入額は低くなっています。
年間労働時間 | 年間収入額 | |
---|---|---|
全産業平均 | 2,112時間 | 489万円 |
大型トラック運転者 | 2,544時間 | 463万円 |
中小型トラック運転者 | 2,484時間 | 431万円 |
少子高齢化で労働者の売り手市場が続く日本においては、労働時間が長くて収入が少ない職業をあえて選ぶメリットが乏しいことから、多くの求職者は少しでも条件の良い就労先を探そうと考えるでしょう。
また、経験豊富なドライバーが現職より待遇の良い大企業の求人を見つけた場合、そちらに転職するケースも多いため、中小企業においては特に人材確保が難しい面があります。
女性進出の遅れ
物流業界におけるドライバーの女性進出が遅れていることも、ドライバー不足の一因とされています。
厚生労働省の「自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト」では、トラック運転者における女性の進出状況が紹介されており、道路貨物運送業の就業者に占める女性の割合は20.1%となっています。
同サイトで紹介されている“全産業に占める女性の割合”が44,7%であることを考えると、業界全体で改善の余地はあるでしょう。
しかし、女性をドライバーとして社内に迎えるためには、以下のような問題を解決する必要があります。
●育児休業や再雇用制度の充実(妊娠・出産を想定した制度の整備)
●身体的な負担の軽減(重量物の運搬に対する配慮など)
●女性更衣室及びトイレの整備
女性にドライバーとして活躍してもらうためには、女性ドライバーを継続して雇用できる体制を整えられるかどうかが重要になってくるでしょう。
ドライバー不足を解消するための対策
企業がドライバー不足を解消するためには、幅広い観点から候補者をとらえ直し、候補者にとって魅力的な環境を準備することが大切です。
具体的には、次の3つの人材層に焦点を当てて、以下のような対策を講じる必要があります。
人材層 | 対策の例 |
---|---|
若年者 | ●働きやすい労働時間・シフトの導入 ●教育体制の充実 ●キャリアパス及びキャリアプランの提示 ●勤続年数に応じた報奨制度の適用 など |
女性 | ●清潔感のある職場作り ●体力面で負担をかけない仕組みの構築 ●仕事・家庭を両立できる働き方の提案 ●勤続年数が長い女性ドライバーのコンピテンシー(行動特性)の特定 など |
シニア | ●定年延長、繁忙期のみ雇用など、柔軟な働き方の提案 ●従事させる職務の限定(積み込み・積み下ろしのない作業など) ●ドライバー以外の職種での雇用(倉庫や事務など) |
ドライバー不足を解消するために
物流業界においては、ドライバーの人員・スキルが生命線であり、ドライバー不足は事業を停止せざるを得ない状況に追い込むほどの重大な問題です。
ドライバーを確保できなければ、トラックを手放す必要性も生じるため、企業はあらゆる手立てを考えてドライバーを確保しなければなりません。
若年者にとって魅力的な職場作りを意識することはもちろん、女性やシニア人材にも活躍の場を提供できるようにすることで、職場にも活気が生まれるでしょう。
まずは、自社で取り組める施策・採用したい人材のイメージを見直し、早期に採用に向けた行動を起こすことが大切です。