ドライバーの時間外労働時間が年間960時間に制限されることで諸々の問題が生じる、いわゆる「2024年問題」は、荷主の商品配送コスト上昇・宅配サービスの利便性低下といった悪影響をもたらすことが懸念されています。
物流業界ではドライバー不足を解消するために、トラック運転経験の有無・年齢・性別を問わず働けるよう、ドライバーの運転負荷軽減に向けた取り組みを進めています。
この記事では、運転負荷軽減策の一つである「トラックのオートマ化の進展」について、その背景や影響などについて解説します。
トラックのオートマ化が進んだ背景
日本でトラックのオートマ化が進んだ背景としては、以下2つの要因が考えられます。
●人手不足解消
●技術革新
日本では乗用車市場においてAT車の比率が圧倒的多数を占める状況です。
そのような状況において、企業がドライバーの確保を優先する場合、ATトラックを導入する必要があります。
トラックメーカーでも技術革新が進み、トルコンATの“エンジンの出力トルクがタイヤに伝達される過程で失われるトルク(トルクロス)”の問題を改善した「セミオートマ」搭載のトラックが普及しました。
MTの仕組みをベースにしたセミオートマは、MTドライバーが行うような変速操作を実現しつつ、アクセル・ブレーキだけで運転ができるため、大型車両で荷物を積載するトラックドライバーのニーズを満たすものだったのです。
セミオートマの登場は、実質的に「AT限定免許でも運転できるMTトラックが誕生した」ということです。
また、これまで物流業界でドライバーに求められた条件を再定義するきっかけになったとも言えるでしょう。
ATトラックのメリット
ATトラックの導入によって、ドライバーおよび物流・運送業者が享受できるメリットとしては、次のようなものがあげられます。
ベテランドライバーに近い運転の実現
MTトラックの場合、クラッチのつなぎ方がスムーズでない場合、エンスト・摩擦による車体揺れが発生しやすくなります。
乗用車と違い、トラックは荷台に荷物を載せて走ることから、ドライバーの技術によっては運搬中に荷物に傷をつけてしまうリスクもあります。
しかし、ATとMTの良い点を組み合わせたセミオートマ車であれば、ドライバー自身がクラッチをつなげなくてもスムーズな変速ができます。その結果、ドライバー・荷物ともに安全な運転の実現につながります。
燃費の向上
MTトラックの場合、ドライバーの技術によって燃費が変わってくるため、経験の浅いドライバーの場合は燃費に意識を向けるのが難しい場合があります。しかし、ATトラックであれば、どのドライバーが運転しても安定した燃費でトラックを運行しやすくなります。
ATトラックに搭載されたトランスミッションの中には、車速・エンジン回転数・補助ブレーキなどを自動制御できる機能を搭載したものも見られます。
エコモードなど、燃費に配慮したモードがデフォルトで設定されているトラックを導入すれば、更なる燃費向上が期待できるでしょう。
ドライバーの負担軽減
MTトラックの場合、都市部や渋滞時の運転において、操作が煩雑になり負担が大きくなります。
しかし、ATトラックであれば変速が自動的に行われるため、運転がスムーズに行えます。
オートマ化による影響
トラックのオートマ化が進むと、物流業界に様々な影響を与えることが予想されます。
以下、良い影響・悪い影響について解説します。
良い影響
トラックをオートマ化することは、これまでMTトラックを運転したことがない層にも活躍の場を与えることになり、結果として人材確保につながります。
例えば、女性ドライバーの採用が増えれば、単身女性宅への宅配・引越しサービスなど、自社で取り組んだことがない新しいビジネスモデルの着想に至る可能性もあります。
また、ATトラックが普及すると、将来的には中古市場にATトラックが数多く流入することが予想されます。
中古車両の選択肢が増えれば、自社が欲しいATトラックを安価に導入できるようになり、現場への投入もスムーズに進むでしょう。
悪い影響
一見、トラックのオートマ化はメリットが大きい選択肢に見えますが、ドライバー全員が必ずしもオートマ化を歓迎しているとは限りません。
ATトラックの積載時におけるパワー不足・エンジンブレーキの弱さなどを理由に、MTトラックを支持するドライバーは一定数存在しています。
事業者の中でも、オートマ化のメリットを疑問視する声は多く、MTトラックに比べて燃費が悪くなるという意見も聞かれます。
社内でオートマ化を進めることによって、ベテランドライバーが職場を離れてしまうことになれば本末転倒のため、100%オートマ化を目指すかどうかは事業者の状況等によって判断は分かれるでしょう。
トラックのオートマ化には弊害も…
かつての物流業界ではMT車が一般的な時期があり、大きな理由の一つとしてトルクロスの問題があげられます。
MTトラックは、ドライバーのテクニック次第で適切な変速操作が可能ですが、トルコンATの場合は液体のATフルードを介して動力伝達を行うため、車両重量が大きく、荷物を積んで走るトラックには不向きとされてきました。
この点をMTベースのセミオートマが解決したことにより、近年の物流業界ではオートマ化の動きが進み、ATトラックの導入によってAT限定免許を持つ人材などの新しい雇用創出が期待されています。
その一方で、MTトラックのメリットや操作性を熟知している、長年業界を支えてきたベテランドライバーが職場を離れてしまうリスクは低減しなければなりません。
企業によって判断が分かれるところですが、少なくとも2024年問題の解決において、部分的にでもオートマ化を進めることには一定のメリットがあります。
MTトラックを運転できる人材に配慮しつつ、ATトラックの割合を徐々に増やしていくことが、物流業界の存続を考える上での最適解と言えるのかもしれません。