月刊トラックランドONLINEとは

まなびのコラム

株式会社トランスウェブ
代表取締役社長 前沢 武氏


彼らに夢を見続けさせてあげるのが私の仕事なんです

 千葉県富里市。真っ白な外壁の建物、スカイブルーのポイントカラー。広大な敷地内に並ぶ海外メーカーの真っ白な車両が一際目を引く株式会社トランスウェブ。全国8箇所の事業所全てに海外リゾートのような休憩スペースを置き、ここでは従業員がゆったりと時間を過ごしている。リアルなライフスタイルとして夢が叶う絵を描きつづける前沢武社長にお話を伺った。

【株式会社トランスウェブ】
本社:千葉県富里市美沢8-5
設  立:平成13年(2001年)1月
従業員数:265名
所有台数:220台 (非牽引車含む)
事業内容:モータースポーツに携わる車輌・機材の運搬
     輸入車輌・開発車両の全国運搬
     コンサート・舞台イベントの機材運搬

-創業に至った経緯を教えてください

 東京生まれ。大阪の輸入車販売会社に就職して、外車の販売をやっていました。
きっかけは高校時代のアルバイトなんです。当時は仙台に住んでいましたが、春休みだけ大手引越業A社のアルバイトをしていました。ここのトップに気に入られましてね、その後も月に2日程バイトをしました。もともと車が好きだったので卒業後は栃木県にある自動車専門学校に進学したんですが、その際に「前沢くん、うちは栃木にも営業所があるからバイトしたらいいよ」って。2年間、学校で学びながら引越しバイトを続けました。自分としては専門学校の系列会社に就職するものと考えていたんですが、ご縁があってA社の大阪本社輸入車販売事業に就職。最初は整備で入社したんですが喋るのが向いていたので営業職で3年間勤務しました。
 その後、新店舗オープンとのことで東京で4年間働きました。ここで運送会社のお客さんがフェラーリを買ってくれたんですが、その運送会社でレーシングマシンやコンサートの機材を運ぶ事業を始めるから運転手をやってみないかという話に。ちょうどこの頃、自分としては月に1億売ったら営業としての仕事はやり尽くしたかなという気持ちもあったんです。将来について考えている時期だったので思い切って決断し、トレーラーの運転手に転職しました。

-この時、27歳。大きな転機を迎えたのですね?

 輸入車販売に携わる中で、高級車両やレーシングマシンを輸送するトレーラーの魅力にハマっていきました。そこでトレーラー運転手に転職したんですが、モータースポーツ関連の仕事は毎日ある訳ではない。月に1回ほどのレース以外は4トン車に乗り換えてチャーターの荷物を運んでいました。仕事を進めていく中で、これが本当に自分のやりたい事だったのだろうかと思うようになりましてね。自分で何とかしなければと考えるようになって、ここから茨の道が始まりました(笑)。
いつしか、その運送会社もモータースポーツ事業を売却する事になり、じゃあトラックを譲ってもらえないかと。ナンバーを取得して自分で事業するようになりました。そもそもレーシングマシンを運ぶ仕様のトレーラーだからスポーツカーも運べるんです。外車販売の友人達に車両を運ばせて欲しいと連絡して仕事をしましたね。
 2001年1月、29歳で株式会社トランスウェブを立ち上げました。従業員7名、中古車両7台でスタートしたんですが、他の運送会社とどのように差別化を図るかが課題でした。陸送会社からすると高価でリスクを伴う高級車は運びたくないものなんです。それに対して、私は外車のセールスをやっていた時にいろんなスーパーカーを扱ってきたので免疫がある。だから高級車向けのトレーラーを作ることができたし、リスクの高い輸送事業を専門に仕事をすることができたと思っています。


至るところにこだわりが感じられるトランスウェブ本社。
左下写真のコンテナは、エアコン移動可能な移動用オフィスとなっている。

-創業21年目。更なる事業展開を聞かせてください

 本社・東京営業所のほか、北海道、仙台、名古屋、大阪、福岡と全国に拠点が広がっています。今はドッキングポイントを御殿場あたりに計画中なんです。本社(千葉県富里市)から2時間のエリアに自社の倉庫と営業所を立ち上げようかなと。この拠点があると1日2往復できる計算なんです。そこから名古屋営業所までは4時間だから1日1往復できるし、各営業所から2時間の倍数のエリアに拠点を置くようにするとドライバーにも負担なく運行できます。そして、広範囲でこれを実現できるのはトレーラーしかないと思っています。全国配送の運行に関しては基本的にトレーラーで、ヘッドの差し替えでやっていきたいなと考えているところです。

-2007年より輸入車両の出荷前点検を行う施設・PDIセンターをスタートされましたね?

 PDIセンターは弊社の2番目の柱と捉えています。コンテナで日本に入ってきた車両がここに到着して1~2週間ほどかけて作業をしたのち全国のディーラーへと納車されていきます。各メーカーごとに整備や点検項目が違うので、それに沿って輸送の際のダメージチェックや搭載品の確認、マニュアルブックが日本仕様になっているかなどをチェックし、予備検査や不具合の修理、細かい塗装補修などの作業をしています。
そもそもPDIセンターを開設したのは、私が高級外車メーカーと同じ色の真っ赤なトレーラーを作りたいと思ったことがきっかけなんです。それを作るためには専用の仕事が毎日ない限りは無理だと思ったので、現地本社からの仕事を取るにはどうしたらいいかを常に考えていましたね。PDIで受け入れることができれば仕事は毎日あるはずだと。それを目標にやってきて、今では一つのメーカーだけでも年間1500台~2000台の車を扱うようになりました。
 センターの外壁はもちろんですが、内装や作業スペースも白にこだわっています。様々な高級車を扱っているため、そのブランドイメージを損なわずに、その車が一番輝いて見えるようにと考えて作りました。また作業効率を重視するためにバックヤードを備え、車両の周りには余計なものは置かないようにする。清潔感や仕事に対する誠実さも意識しています。これは弊社で所有する車両を白に統一している所とも共通していますね。

世界各国から輸入された車両は通関後、ディーラーに納車される前にインポーター各社の専門施設で、厳格な品質チェックを受けている。それらの施設では高次な品質管理検査や、また、日本の保安基準に適合しているか等の点検が行われているのである。
この一連の作業は『出荷前点検(Pre-Delivery Inspection)』と呼ばれ、輸入車販売においては欠かすことのできない作業となっている。現在トランスウェブ社は、千葉県内に二箇所のPDIセンターを構え、複数の海外高級車メーカーのPDI業務を担っている。
同社最大規模となる印西PDIセンターは敷地面積70,000平方m、建物面積10,000平方m、約80名の従業員が勤務し年間約5,000台の処理能力を誇っている。

“The whole journey of 13,000 km”
―オランダから日本へ―

-4年前の壮大なプロジェクトをYouTubeで拝見しました!この時のことを聞かせてください

 2016年にドイツで開催されたIAA国際商用車ショーで『スカニア』が21年ぶりにニューモデルを世界発表したんです。次のモデルチェンジも20年後だとすると私はもう現役を引退しているかもしれない。なので、うちに来る最初の車両はヨーロッパで納車して欲しいと伝えました。そして本社に戻って「スカニアをヨーロッパから日本に乗って帰るぞ!」とプロジェクトチームを立ち上げました。そのプロジェクトをスウェーデンのスカニア本社社長に話した時は「道がないんじゃないのか」って。「だけどあなたの会社はロシアでも車両を売ってるじゃないですか?」「確かに・・・」こんな感じでしたね。それで、まずは一度レンタカーで走ってみようとなり、私はモスクワから5,000キロ、社員がウラジオストックから4,000キロ走って、中間地点のバイカル湖がある街で落ち合うという計画で1週間かけてルートを確認しました。
 2018年、オランダでトラクタヘッドを2台納車してもらい、トレーラーが出来上った9月に出発。ちょうどドイツで開催されていたトラックショーで出発式をすることになり、この時はメディアでも扱ってくれました。日本酒と二礼二拍手一礼という日本式のセレモニーを行い出発。トラックの箱にはヨーロッパから日本までのルート13,000kmの世界地図が描かれていたので大きな注目を集めることになりましたね。そこからポーランド、リトアニア、ラトビアのバルト3国を経由してロシアに入りました。
 国境を渡るときには10時間並びましたよ。この時、前にいたトラックドライバーがロシア語で日本まで行くのかって声をかけてきて、翻訳アプリを使って会話しました(笑)「私たちは国境を越えるのが初めてです、この書類で大丈夫なのかを確認してもらいたい」と言ったら「任せろ!」って。車体の絵を見て周りのドライバー達も集まってきてね。言葉は通じないけど、その場にいた全員が私たちの夢を楽しんでくれていると感じました。税関で仕事しているおばさん達も出てきて、ロシアはとても寒いですねって翻訳アプリで伝えたら、みんな爆笑しててね。
 このプロジェクトには社員12名がドライバーとして参加しました。パーキングで朝焼けを見ながらコーヒー飲んだり、見たこともない通貨に驚いたり、3日間お風呂に入れないということもありました。車両のフロントには通ってきた国旗をつけてね。車体の地図を見て人が集まり、私の家はこの辺だよって話しかけてくれた人もいましたよ。当初はとんでもないプロジェクトだって誰もが躊躇したけど、こうして実際に経験したからこそ4年経った今でもみんなで語り合うことができる。夢があっていいでしょ!こうした経験を社員にはどんどんさせてあげたいなと思っています。

記事中に登場する大型トレーラー2台によるユーラシア大陸横断は、2018年9月19日にオランダ・ベーストよりスタートし翌月の10月22日にトランスウェブ本社に到着。4チーム体制で丸々1ヶ月、全走行距離約13,000kmにも及ぶこの途方もない企画は無事に幕を下ろした。道中の詳細なレポートや動画はトランスウェブ社のサイトにて確認することができる。
▶ユーラシア大陸横断の詳細はこちら

-社長の夢とは?

 ドイツトラックショーでのインタビューで、なぜトランスウェブはそういうことをやるのかという話になってね、この時に私は、ドライバーを希望する人が少ないということを話したんです。「日本は島国だから北海道から九州までの中でしか走ることがない。一方、ヨーロッパではこうして国を越えて道がつながっている。だから、あなた達は羨ましい環境を持っているんだ」と。それに私たちは憧れているし、今回こういう形でロマンを見つけるために行動して若いドライバー達にも夢を与えたいんだと答えました。そうしたら現地の方が共感してくれてね。
 全国からトランスウェブに夢を抱いて入社してくれる。そんな彼らの夢を無くさないようにするのが私の仕事だと思っているんです。よく来たね、最初は4トン車から始めるんだよ、大きなトラックに乗れるようになるまで頑張りなさいね、と。そして頑張った従業員はヨーロッパに連れて行って向こうの会社を見せてあげたい。現地のドライバーと会話をしながらトラックに乗せてもらって、実際に体験させてあげたいんだよね。彼らには、こういう社長だからこそ付いて行くんだっていう気持ちに変えていきたいと思っています。

-これからのことをお聞かせください

 3番目の柱として2021年にEUトレーラーズを立ち上げました。創業20年を節目にトレーラー販売にも力を入れてやっていきます。トランスウェブをスタートして21年。運送という主軸はブレずに、そこから波及した新車の点検業務、そして3年ほど前からはトレーラーを売って欲しいという声に対応してきました。ゆくゆくは全国の販売と整備ができるところに卸していきたいと考えています。現在はドイツのケスボーラー、イタリアのロルフォ、オランダのファン・エック、この3社を扱っています。
 EUトレーラーズでヨーロッパのトレーラーを買うと、ライフスタイルも変わってくるよという方向に切り替えていきたいと思っているんです。車両のニューモデル発表時にはパーティを開催したり、ヨーロッパでのイベントに招待したり。時計や洋服などのように、そのブランドが主催するイベントに行くことによって関連した企業の人たちとも接点が生まれ、ビジネスの話も広がっていく。EUトレーラーズと関わることで人生観までもが変化していくような、そんな環境を提供していきたいと思っています。それが私の狙いかな。
 私はトランスウェブをインターネットサイトと同じだと考えているんです。“運送に関してはうちに声をかけてくれれば全てに対応しますよ。だから何でも検索してください”そんな想いを込めてトランスウェブという社名にしました。
 創業して21年。ここを主軸に繋がる人たちの夢を叶え続ける輪が広がっていったらいいなと思います。


車両移動時、自らハンドルを握る前沢社長

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