2024年問題や燃料費の高騰など日本の物流業界は未曽有の変革期を迎えています。この大きな転換点を見据えて「物流革新に向けた政策パッケージ」が策定されました。本政策パッケージは、商慣行の見直し、物流の効率化、荷主・消費者の行動変容という三つの柱を中心に、物流業界全体の持続可能性と効率性を高めることを目指しています。
本記事では、「物流革新に向けた政策パッケージ」の概要と具体的な施策、期待される効果について解説します。
「物流革新に向けた政策パッケージ」とは?
令和5年6月2日「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」にて日本の物流業界が直面している人手不足、労働生産性の低さ、カーボンニュートラルへの対応といった様々な課題に対処するために政府が策定したのが「物流革新に向けた政策パッケージ」です。
2024年問題(トラックドライバーの働き方改革)による物流停滞のリスクに先手を打つため、商慣行の見直し、物流の効率化、荷主及び消費者の行動変容を柱としています。
短期的な対策だけでなく、中長期的な視点で持続可能な物流システムの構築を目指しており、2030年までの輸送力不足も視野に入れた対策が盛り込まれています。政府は本政策パッケージを通じて、物流業界の抜本的な革新と、カーボンニュートラル社会への移行を加速させることを目指しています。
具体的な施策
本政策パッケージの具体的な施策である「商慣行の見直し」「物流の効率化」「荷主・消費者の行動変容」について解説していきます。
商慣行の見直し
現状では非効率な商慣行が物流事業者の貨物輸送効率化を妨げ、トラックドライバーの長時間労働などの問題につながっています。
また、多重下請関係により、実運送事業者が適正な運賃を収受しにくい状況もあり、それらを見直す必要があります。
商慣行の見直しに向けた具体的な取り組みは以下の通りです。
●荷主・物流事業者間の物流負荷軽減
待機・荷役時間削減や納品回数減少を通じて効率的な物流を実現するため、荷主企業・物流事業者・着荷主企業が連携し、改善を図り、規制的措置の導入も検討する。
●納品期限、物流コスト込み取引価格の見直し
食品を製造した日から賞味期限までの期間の3分の1までに納品が求められる「3分の1ルール」が物流と在庫管理を複雑化させているため、食品事業者に対しての働きかけ、見直しを求める。
●物流産業における多重下請構造の是正
実運送事業者が適正な運賃を収受できるように、元請事業者が実運送事業者を把握しやすくする措置の導入を検討する。
●トラックGメンの設置
荷主企業・元請事業者の適正な取引を監視し、適正な取引実現に向けた「働きかけ」「要請」を強化する。
●担い手の賃金水準向上への取り組み
運賃・料金の適正な収受と価格転嫁の円滑化に向けた措置を実施し、「送料無料」表示の見直しなどに取り組む。
●「標準的な運賃」制度の拡充・徹底
荷主企業等への周知徹底を強化し、荷待ち・荷役に係る費用や燃料高騰分も含めて適正に転嫁できるようにするため、「標準運送約款」や「標準的な運賃」の見直しを図る。
物流の効率化
物流業界全体でのデジタル変革(DX)を通じた効率化と生産性の向上も欠かせません。また輸送手段の多様化や環境に優しいモーダルシフトの推進など、脱炭素化への取り組みも含まれます。
さらに、これらの取り組みを支える物流の標準化も必要不可欠です。加えて、輸送の安全確保とともに、人材の有効活用や育成も同時に進めることが求められています。
物流の効率化に向けた具体的な施策は以下の通りです。
●即効性のある設備投資の促進
物流事業者が自動化・機械化を進めるための設備投資を推進し、荷主企業でもパレット化や到着時間指定を推進する。
●物流GXの推進
モーダルシフトの強力な促進、省エネ化・脱炭素化に資する車両や船舶の導入、物流施設等の省エネ化・脱炭素化を進める。
●物流DXの推進
自動運転、ドローン物流、自動配送ロボットや自動倉庫の導入を推進し、物流の生産性向上を図る。
●物流標準化の推進
パレット標準化や大型コンテナの導入を促進し、物流の効率化を図る。
●物流拠点の機能強化や物流ネットワークの形成支援
物流施設の機能強化やインフラ整備を進める。
●高速道路のトラック速度規制の引上げ
大型貨物自動車の最高速度を引き上げる方向で調整する。
●労働生産性向上に向けた利用しやすい高速道路料金の実現
大口・多頻度割引の拡充措置を継続する。
●特殊車両通行制度に関する見直し・利便性向上
通行時間帯条件の緩和や手続き期間の短縮を図る。
●ダブル連結トラックの導入促進
トラック輸送の省人化を促進するため、ダブル連結トラックの導入を図る。
●貨物集配中の車両に係る駐車規制の見直し
規制緩和や交通実態に応じたきめ細かな取組みを推進する。
●地域物流等における共同輸配送の促進
過疎地域における担い手不足や貨物量減少に対応するための共同輸配送を促進する。
●軽トラック事業の適正運営や安全確保
軽トラック運送業における安全対策を強化し、軽トラック事業の適正運営を図る。
●女性や若者等の多様な人材の活用・育成
トラック運送業における深刻な担い手不足解消を目指し、多様な人材の活用・育成を推進する。
荷主・消費者の行動変容
物流事業者だけでなく荷主企業や消費者の意識と行動の変化も求められます。現状での「2024年問題」に関する認識は、荷主企業や消費者の間ではまだ十分ではなく、従来の広報活動だけでは不十分なため、改善が求められています。
荷主・消費者の行動変容に向けた具体的な施策は以下の通りです。
●荷主の経営者層の意識改革・行動変容
経営者層の意識改革を促し、全社的な物流改善を進めるために、荷主企業に物流管理の責任者を配置することを義務付ける規制的措置の導入を検討する。
●荷主・物流事業者の物流改善の評価・公表
荷主企業と物流事業者による物流改善取組みをランク評価によって見える化し、企業の努力が市場から評価される仕組みの創設を進める。
●消費者の意識改革・行動変容を促す取組み
消費者が配送日時をゆとりを持って指定することを促すなど、消費者の意識改革と行動変容を進める取組みを推進する。
●再配達率「半減」を含む再配達削減
再配達率の半減を目指し、コンビニやガソリンスタンドでの受け取り、マンションの宅配ボックス設置、置き配の推進など、宅配事業者の負担軽減に資する取組みを進める。
●物流に係る広報の推進
物流の重要性や危機的状況を広く荷主企業や消費者に伝え、持続可能な物流の実現に向けた広報活動を官民連携で強化する。
施策によって期待できる効果
2024年に予測されているトラックドライバー14万人相当の輸送力不足を解消するためには、トラックの荷待ち・荷役時間を平均で4分削減、トラックの積載率の向上、内航海運や貨物鉄道への輸送転換を促進、宅配便の再配達率を削減するなど、複数のアプローチが求められます。
なお、施策を実施することで左記のような効果が期待されています。
「物流革新に向けた政策パッケージ」のポイント
施策 | 施策なし | 施策あり | 効 果 |
---|---|---|---|
荷待ち・荷役の削減 | 3時間 | 2時間×達成率(3割) | 4.5ポイント |
積載率向上 | 38% | 50%×達成率(2割) | 6.3ポイント |
モーダルシフト | 3.5億トン | 3.6億トン | 0.5ポイント |
再配達率削減 | 12% | 6% | 3.0ポイント |
合計 | 14.3ポイント |
※1ポイントはトラックドライバー1万人相当 参考:内閣官房
2024年問題を乗り超えるために
「物流革新に向けた政策パッケージ」は、2024年問題を乗り超え、日本の物流システムの効率化と持続可能性を高めるための重要な施策です。
政府は商慣行の見直し、物流効率化、荷主および消費者の行動変容を促進するために様々な施策の導入を検討しています。
荷主企業と物流事業者間の物流負荷軽減、多重下請け構造の是正、経営層の意識改革といった規制的措置の具体化を、通常国会での法制化を視野に入れて現在進められています。
参考:「物流革新に向けた政策パッケージ」のポイント|内閣官房