ベルギー出身。55歳。昨年8月、スカニアジャパンの代表取締役に就任したアラン・スーダン氏。
北欧スウェーデンに本社をおき世界規模でトラック・バス・産業用ディーゼルエンジンなどを展開するスカニア社は、2009年にスカニアジャパン株式会社を設立。
昨年11月24日にはスカニア本社が5年の歳月と総額20億ユーロ(日本円で約3,140億円)を超える研究開発費を投じて自社開発した革新的なパワートレインを搭載する新型スカニア『SUPER』を日本国内で発売した。
アラン・スーダン社長に日本におけるスカニア社の展望について伺った。
【スカニアジャパン株式会社】
事業概要:●大型トラック・バスの輸入、販売
●上記製品に関するアフターサービス
●産業用エンジンに関するアフターサービス
所 在 地:東京都港区芝4-4-20 グーゴルプレックスミレニアムビル7F
代 表 者:代表取締役 アラン・スーダン
設 立:2009年8月
従業員数:約80名
ヒストリー
-これまでの経歴を教えてください
私の青年時代にはベルギーで兵役が義務付けられていたので、軍に勤務した後、金融関係の仕事に就きました。数年後、フランスに本社を置くヨーロッパ有数のトラックメーカー、ルノー・トラックに就職し17年間在籍しました。営業やマーケティングなどを経験して、最後の7年間はベネルクス地域(ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)のルノー・トラック社長を務めました。その後、新しい挑戦が必要だと感じてイタリアのIvecoに入社し、トラックだけでなくバスの事業も統括する社長として3年間パリを拠点に滞在しました。
そして8年前、スカニアに入社しました。ディーラーディレクターとしてベルギーで5つの主要なスカニアトラックディーラーを統括し、約120名の整備士と、7名の営業担当者を抱えました。ヨーロッパ地域を担当するセールスディレクターとして、スカニアヨーロッパ経営委員会に加わり、その後アジア地域へ。シンガポールでスカニアAOR(アジア・オセアニア地域)のセールスディレクターとして2年間務め、昨年スカニアジャパンの社長として来日しました。
プライベート
-普段はどのようなことをして過ごされていますか?
私は旅行が大好きで様々な所へ家族や友人と旅をしてきました。自由な時間があまり作れない時には本を読んだり料理をしたり友達と過ごしています。ただし最近は料理の時間を確保するのもますます難しくなっていますね。
スポーツも好きです。特に走ることが好きで過去10年間はランニングに焦点を当てて練習してきました。去年11月末には富士山でフルマラソンを走りましたよ。それが私の趣味の一つです。
もちろん仕事とプライベートのバランスを見つけるのは難しいですけどね。自分の仕事に情熱を注ぎ多くの時間を費やしていますが、自由な時間ができた時には家族と過ごすことを優先しています。妻は私と一緒に来日してくれたし、20歳と22歳の2人の娘はベルギーとカナダに住んでいます。自由な時間がある時はいつも家族のために捧げたいと考えています。
-来日6ヶ月。日本の印象はいかがですか?
今、私は日本の生活に魅了されています。これまで母国のベルギーをはじめ、フランスやオランダ、南アフリカなど様々な国で生活してきましたが、これらの地域と比較すると日本での暮らしは少し難しいですね。残念ながら私は日本語が読めませんし話せませんからコミュニケーションの方法を適応させるには時間がかかります。異なる文化ですからね。でも日本には学ぶべき伝統や場所がたくさんあるので、日に日にこの国が好きになっています。
来日して6ヶ月で学んだことの一つは日本の料理を楽しむということで、中でも寿司が一番のお気に入りです。驚くかもしれませんが刺身が大好きなんです。
仕事のこだわり
-仕事でのこだわりをお聞かせください
『walk the talk』これは私が仕事でもプライベートでも実践している哲学です。チームや顧客とのコミュニケーションにも「話し合い」を大切にしています。全員が満足する合意を見つけるために最善の方法について話し合うことは大切ですね。特定の方向に進む前に、ある程度の時間をかけたいと考えています。私にとっては顧客と十分な時間を過ごすことが重要であり、また自社の従業員とも議論する時間を取ることを大切に思っています。お客様には「スカニアジャパンを頼りにしている」と思っていただき、一緒にベストな方法を話し合っていきたいと考えています。
新開発パワートレイン搭載・新型スカニア『SUPER』について
-昨年11月に新型スカニア『SUPER』を発売されました。その特徴を教えてください
新型スカニア『SUPER』はスカニアのDNAとは何かを再確認する事ができる車両です。スカニアは過去数十年に渡り、皆様にとって信頼できるパートナーとして高い燃費効率とドライバビリティ、そしてトラックドライバーの情熱を掻き立てる車両を提供してきました。『SUPER』にはスウェーデンのスカニアR&D(Research & Development・研究開発)部門が自社開発した新しいパワートレインが搭載されています。5年間に及ぶ研究や広範なテスト、20億ユーロ(日本円で約3,140億円)を超える研究開発費を投じた結果、その中核となる新型13Lエンジン、新型ギアボックス、新型リアアクスルという、3つの主要コンポーネントを備えた全く新しいパワートレインが誕生しました。
『SUPER』は、日本の運送会社の競争力をサポートする“4つのソリューション”を提供します。①クラス最高の燃費効率、②燃料消費をさらに削減するための「My Scania」と呼ばれるデジタルエコシステム、③ドライバーが燃費消費を削減できるように設計されたドライバーアプリ、④ドライバーにとって最も快適で安全な労働環境、これらを実現します。
2021年にスカニアがヨーロッパで『SUPER』を発売した際、先代と比較して燃費が8%向上することを確信していました。しかしお客様からは「My Scania」を使ってドライバーの運行状況を管理・監視することで、燃料消費量を最大15%節約できたというフィードバックも頂いています。
ドライバーは作業環境に特に敏感です。私たちは日本でのこれまでの経験から、トラック運転手が一度スカニアプレミアムトラックを使用すると他のブランドには戻りたがらないことを知っています。『SUPER』を所有することは、運送会社にとって価値ある選択と言えるでしょう。
-脱炭素化に向けた御社の取り組みについて
スカニアは持続可能な輸送システムの実現にも熱心に取り組んでいます。2015年のパリ協定によりトラックメーカーとして初めてCO2削減に関する独自の目標を正式に設定しました。
私たちは、これらの目標に基づき2つのコミットメントを行いました。1つ目は、生産インフラと生産方法に関して、2025年までに2015年と比較して二酸化炭素排出量を50%削減すること。そして2つ目は、販売車両からの排出量を20%削減することです。
新型スカニア『SUPER』は、これらの目標に基づいて開発されました。最高の燃費効率を提供することで二酸化炭素排出量の削減にも貢献し、お客様はより良いカーボンフットプリント(温室効果ガス削減のための取組み)の恩恵を受けることができると考えています。
日本における課題
-グローバル競合他社を見ると水素エンジンなど異なるエネルギーを推進していることが分かります。日本においてディーゼルエンジン以外の計画はありますか?
現在、全国に44の正規ディーラーがあり、今後は60の整備工場を早期に展開することを目標としています。私たちは欧州で持続可能な道のりを牽引しており、電気自動車以外にも、バイオディーゼルや天然ガス、代替発電などグローバルに展開してきました。
今後、日本の市場でも電気自動車を導入していく場合、全てのお客様に対して完璧なサービスを提供する必要があります。このためにはまず第一に整備工場が電気自動車を取り扱えるようにすることが必須であり、多額の設備投資や、技術者のトレーニングが必要です。そして最も考慮しなければならないのは、日本における電気自動車用のインフラについてです。例えば現在、充電ステーションや設備は手軽に利用可能でしょうか? 日本にはまだ多くの課題があると考えています。私たちは全ての前提条件が満たされ次第、日本の市場でも電気自動車を展開していく予定です。
-海外市場と日本市場で、どのような違いを感じますか?
欧州連合(EU)では27の加盟国が制度などの調和を図ってきました。
ほとんどの地域で道路インフラは整えられ、パレットやボックスなどは共通の規格とルールのもとで運用されています。これは法律が過去10年以上に渡って輸送業界全体を刺激し続けた事に起因し、車両の積載量を最大限に引き出すことに繋がりました。
一方、日本の輸送業界は国の基準よりも地域のニーズに基づいていますね。例えば、果物の生産業者によって何十種類もの箱があり、大きさや形がすべて異なっています。このためフォークリフトだけではトラックに積めない事があり、荷物の積み下ろしはドライバーが手作業で行わなければなりません。また箱の規格が様々なためにトラック内に空きスペースができたり、完全に積み込むことができなかったりと効率的ではないのです。車両の積み降ろし方法一つ取っても工夫の余地が多くありますが、その為には日本でも実施されるべき標準化が必要です。 他の国々がどのようにしてドライバーの環境を整えているか国際的な手法に注目し、日本でも新しい基準を定めることで改善できる可能性があると感じています。
日本における戦略計画と事業展開について
-今、日本の物流業界はドライバー不足や2024年問題など大きな課題に直面しています。トラックメーカーのCEOとしてどのような印象をお持ちですか?
今月から始まった運転時間の規制は、日本の運送会社にとって主に2つの影響を与えるでしょう。それは“営業コストの増加”と“ドライバー不足の深刻化”です。率直に言えば、これからの日本で起こることはかなり変革的で、現在の貨物輸送のあり方を今一度見直す必要があると考えます。
日本の輸送の現状は地域ごとで様子が異なります。また、やや時代遅れのインフラもあり制約もあります。このため多くの運送会社は効率を向上させる新しい方法を見つけることが必要でしょう。例えば、課題の一つであるドライバー不足という現実に対し、新しいタイプの車両や、新しい考え方、そしてトラックの購入方法を再考することも解決策と考えます。
一方で、専門家によると新しい法律の影響は輸送の総容量を14%減少させる可能性があるとの見解もあります。これは新型スカニア『SUPER』への架け橋ともなるでしょう。使用する車両を見直したり、ドライバーがどのように運転しているかモニタリングを通じて検証することも非常に重要です。
そして最後に伝えたいのは「いつかスカニアを運転したい」と夢見るドライバーが多くいてくださるという事です。私たちは、スカニアの導入を検討することがドライバーを増やすための解決策をもたらすと確信しています。そのためにも魅力的な車両を提供し続けることが新しいドライバーを引き寄せることにも役立つでしょう。
-スカニアのコアバリューにある【個人の尊重】について詳しくお聞かせください
私たちはお客様のビジネスパートナーになることを何よりも大切にしています。お客様のコアビジネスに価値を見出し、運送会社が効率を高められるよう完全なモビリティソリューションを提案できる存在でありたいと考えています。
例えば、トラックの購入は投資だと考えます。車両価格は安くないかもしれませんが、重要なのは運行中の効率で、お客様に対する価値の一つはTCO(総所有コスト)に関わるものです。私たちは市場で最も安いトラックを提案しようとしているわけではありません。すべてのお客様に最善の車両を提案し、車両の寿命を通じての投資を見ていくことも重要だと考えます。これは数年といった期間がかかる可能性があり、リセールバリューや燃費、運転コスト、稼働時間も見ていく必要がありますね。
-2024年の事業戦略をお聞かせください
私たちの野心は日本での成長を加速させることです。2023年は500台を販売し、今年はさらに50%以上の増加を目指しています。
日本におけるスカニアのネットワークは着実に成長しています。そして、更に多くの車両を販売することが私たちの大きな目標の一つです。この目標を達成するために、私たちはディーラーネットワークと一体となって、日本全国どこでもプレミアムレベルのサービスを提供できるようにしていきます。質の高いサービスを提供する独立系ディーラーの優れたネットワークと協力し、今後3年間で市場シェアを倍増させ、ネットワークの発展に投資を続けていきます。
お客様に提供するサービスの成長によって、スカニア自身も成長していくこと。これが私たちの主要な戦略です。
-日本のスカニアファンへメッセージをお願いします
世界中で同じ情熱を持つ人に出会えるのは本当に感動することです。日本にもスカニアに情熱を抱く多くのトラックドライバーと顧客がいます。例えば、ガソリンスタンドに立ち寄ったときにスカニアのトラックがあると、そこでコミュニケーションが生まれます。スカニアのトラック、特に象徴的なV8エンジンへの情熱を伝え合っている様子を聞くと嬉しくなります。
スカニアに対する想いを分かち合っているドライバーや物流会社の皆さんに感謝するとともに、日本におけるスカニアファミリーの規模が拡大することを願っています。
今年は辰年。機会の年です。月刊トラックランド読者の皆さんと一緒に様々な機会を探り、課題克服のためのお手伝いができることを確信しています。
トラックランド読者の皆さんと一緒に様々な機会を探り、課題克服のためのお手伝いができることを確信しています。
インタビュー・記事 / 鳥越雅子
写真 / 安岡花野子
写真提供・取材協力 / スカニアジャパン株式会社